WISDOM
大工の知恵
木を選び、読み、使う。大工に伝わる知恵を、文献と今の木材の知見で読み解きます。
木を選ぶ
- 赤身は腐りにくく、白太は虫がつきやすい丸太の中心側の色の濃い部分(赤身=心材)は腐りにくく、樹皮側の白っぽい部分(白太=辺材)は、腐れや虫の害を受けやすい。水や虫に当たる場所には赤身を選ぶという考え方。
- 木は、その土地の近くで育ったものを使う家を建てるときは、遠くから運んだ木ではなく、建てる土地の近くの山で育った木を使う。近くで育った木はその土地の気候になじみ、長もちするという考え方。
- 檜は伐ってからも数百年、強さが増すとされる檜は伐り倒されたあとも、二、三百年のあいだ曲げ強さや硬さがじわじわと上がり、その後ゆっくり弱くなるとされる。千年以上たった法隆寺の柱でも、新しい材とほぼ同じ強さがあるという話。
- 千年育った檜は、建物としても千年生かす樹齢千年の檜なら、建物の材としてもさらに千年生かすようにする、という西岡常一の考え方。法隆寺の檜が、木として千年、建物としてさらに千三百年を生きてきたことが下敷きにある。
- 堂や塔の木は、木でなく山ごと買う堂や塔に使う材は、伐り出された木を一本ずつ買うのではなく、木が育っている山ごと手に入れる。山で育った場所と環境を自分の目で確かめてから、どの木をどこに使うかを決めるという考え方。
木を読む
- 板は木表の側へ反る板目の板は、乾くと木表(樹皮に近い側)が凹むように反る。木口の年輪の弧を見れば、どちらへ反るかを先に読める。
- 元と末は、節と木目で見分ける木が立っていたときの根元の側を元、梢の側を末と呼ぶ。角材や板になって太さで分からなくなっても、節の向きや板目の模様から元と末を見分ける。
- 木には、それぞれねじれの癖がある木の繊維は幹の軸にまっすぐ並ぶとは限らず、らせん状に傾いていることがある。こうした材は乾くにつれてねじれ、その大きさは樹種によって大きく違う。
- 年輪の詰んだ木は強いとされる年輪の間隔が狭い木は密度が高く強い、と現場では言われる。針葉樹ではある程度あてはまるが、詰みすぎた材や広葉樹の一部では逆になり、年輪幅だけで強さは決まらない。
- 芯を持つ材は、乾くと割れが入りやすい髄(芯)を含む材を心持ち材と呼ぶ。心持ち材は乾くと表面に割れが入りやすく、柱などでは見えない面にあらかじめ切れ込み(背割り)を入れて割れをそこに集めることがある。
木を使う
- 木は育った方位のままに使う山の南側で育った木は建物の南側に、北側で育った木は北側に使う。木が山で立っていた向きを、そのまま建物の中に写すという考え方。
- 板は、木表と木裏を部位に合わせて使い分ける板目の板は、樹皮に近い側(木表)と芯に近い側(木裏)で性質が違う。床板や化粧の面は木表を見える側にし、敷居・鴨居は溝を木表の側に彫る。
- 木は、一本ごとの癖を見て組み合わせる堂や塔の木組みでは、一本一本の木が持つ癖を見きわめ、その癖どうしを組み合わせる。法隆寺の宮大工・西岡家に伝わる口伝「堂塔の木組は木の癖組」の意味である。
- 曲がった梁は、曲がりの山を上にして架ける丸太梁や太鼓梁のように曲がった材を梁に使うときは、曲がりの山を上にし、真ん中が持ち上がる向きで架ける。上から掛かる屋根や床の重さに、曲がりで向き合う使い方である。
- 柱は元を下に、末を上にして立てる柱は、木が山に立っていたときと同じ天地で使う。根に近い側(元口)を下に、梢に近い側(末口)を上にする。上下を逆にした柱は「逆柱」と呼ばれ、昔から嫌われてきた。
伐る時期
- 木には二つの命がある木には、山で育ってきた樹齢としての命と、伐られて建物の材として働く命の二つがある、という西岡常一棟梁の考え方。大工の務めは、その両方の命を全うさせることにあるとする。
- 伐った木は葉をつけたまま山で乾かす伐り倒した木を、枝葉を落とさずにしばらく山に寝かせておく。葉から幹の水分が抜けて、丸太のうちに乾きが進む。「葉枯らし」と呼ばれる天然乾燥の一つ。
- 木は秋から冬に伐る木を伐るのは、成長が止まる秋から冬にかけてがよいとする言い伝え。林業の現場では、秋の彼岸から春の彼岸まで(9月中下旬から3月中下旬)を「伐り時期」と呼ぶ。
- 新月の頃に伐った木は虫がつきにくいとされる冬の新月の直前に木を伐り、枝葉をつけたまましばらく山に置くと、虫がつきにくく、狂いや割れも少ない材になるという言い伝え。「新月伐採」と呼ばれる。
- 伐った木は、使う前に時間をかけて乾かす伐ったばかりの木は多くの水を含んでいる。製材した材を風の通る場所に積み、自然の温度・湿度と風でゆっくり乾かしてから使う。これを天然乾燥という。
道具と刃物
- 釿(ちょうな)で木の面をはつる釿は、材の上面を削り落とす「はつり」に使う道具である。丸太を角材に削り出す荒仕事から、はつり跡をそのまま見せる「なぐり仕上げ」まで使われる。
- 日本の鋸と鉋は引いて使う日本の鋸は引くときに切れるようにつくられ、鉋も手前に引いて削る。世界の多くの地域では鋸も鉋も押して使うため、日本の使い方は珍しいとされる。
- 刃物の切れは研ぎで決まる鑿や鉋の切れ味は、日々の研ぎで保たれるという考え方。荒砥・中砥・仕上砥と段階を踏み、刃裏を平らにし、切刃を整えて初めて刃物は切れる。
- 差金の裏目で、丸太から取れる角材の大きさがわかる差金の裏には、表の目盛りを√2倍した「裏目(角目)」が刻まれている。丸太の木口の直径を裏目で測ると、その数字がそのまま、中から取れる正方形の角材の一辺になる。
- 台鉋が伝わる前は、槍鉋で面を仕上げた今の長方形の台鉋が日本で使われ始めたのは室町時代の中頃とされる。それまでは、笹の葉の形の刃を柄の先に付けた槍鉋で、木の表面を削って仕上げていた。
建て方
- 深い軒は雨から建物を守る屋根の軒を壁より深く出すほど、外壁に掛かる雨が減り、壁の中に雨水が入る危険も小さくなる。
- 柱は礎石の上に据えて立てる土台を設けず、柱の足元を礎石の上に乗せて建物を立てる。柱脚を基礎に緊結しないこの建て方を「石場建て」と呼ぶ。
- 棟木を上げる日に上棟式を行う柱・梁などの骨組みが組み上がり、最も高い部材である棟木を上げる日に、神を祭って建物の無事を祈る。棟上げ、建前、建舞とも呼ばれる。
- 木の癖組みは、工人たちの心組み木の癖を読んで組み上げるには、それを組む大工たちの心がひとつにそろっていなければならない。木組みの出来は、人の組み方で決まるという口伝。
- 伽藍は四神相応の地に建てる寺の伽藍を建てる土地は、東西南北の四方に四神にあたる地形がそろった場所を選ぶ。法隆寺の宮大工・西岡家に伝わる口伝のひとつ。